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Labubu現象から読み解く:なぜ中国Z世代は“奇妙で愛らしい”キャラに惹かれるのか?──在日中国人を起点に広がる日本でのブームの兆し

「かわいい」と聞いて、丸みを帯びた柔らかなフォルムや優しい色合いを思い浮かべる人は少なくない。サンリオやポケモンに代表される癒し系で万人受けするキャラクターたちは、長年にわたり日本のキャラクター文化の基盤を支えてきた。

しかし近年、Z世代の間で注目を集めているのは、むしろ「不気味でクセのある」キャラクターたちだ。その代表格が、中国発のキャラクター「Labubu(ラブブ)」である。毛むくじゃらで丸みのある体に尖った牙、不機嫌そうな無表情──。一見すると奇妙な存在だが、どこか強く惹きつける魅力があり、Z世代の若者たちには「共感の対象」として受け入れられている。

この熱狂は在日中国人コミュニティを起点に、東京の実店舗やSNSを通じて日本国内にも静かに広がりつつある。「かわいい」という価値観が多様化するいま、Labubu現象は単なるキャラクタートレンドにとどまらず、Z世代の消費行動や感性の変化を映し出す鏡だと言えるだろう。

Pop Mart発・Labubuとは?

Labubuは、香港出身のアーティストKasing Lung(カシン・ロン)によって創作され、ブラインドボックス型フィギュアブランド「Pop Mart(泡泡玛特)」の主要IPとして、2015年頃から本格的に展開されている。

Labubuの最大の特徴は、「不完全で奇妙な“ブサかわ”」とも評されるその外見にある。9本の牙を持ち、無表情かつやや不機嫌そうな顔つきは、従来の「癒し系キャラ」とは一線を画す。こうした外見に共感を示すのがZ世代であり、「完璧ではない存在」を自らと重ね合わせることで、Labubuは彼らにとって“感情の居場所”となっている。

販売形態もユニークだ。Labubuは「盲盒(ブラインドボックス)」形式で販売されており、開封するまで中身が分からないという特性を持つ。レアアイテムの存在が開封の瞬間に高揚感をもたらし、SNS上では「開封報告」や「限定キャラ自慢」が一種の文化として定着している。

中国国内のSNS──小紅書(RED)やWeChatでは、Labubuと過ごす日常の様子や、Pop Martのテーマパークでの記念投稿が数多く見られる。キャラクターを「飾る」ものではなく、「共に生きる」存在として受け入れるカルチャーが、着実に根づきつつある。

日本でも静かに広がるLabubu熱──在日中国人を起点に、ブームの兆し

2024年以降、東京・表参道、渋谷、秋葉原といった主要エリアにあるPop Martの店舗では、Labubuを求める在日中国人の姿が顕著に見られるようになった。「日本Labubu購入攻略」や「東京限定Labubu」といったハッシュタグがSNS上で日々更新され、ファン同士による交換会やオフラインイベントも活発に行われている。

これらの動きは、Labubuが単なるフィギュアにとどまらず、「人と人とをつなぐ媒介」としての役割を果たしていることを示している。

一方で、日本人Z世代やサブカルチャーに関心のあるインフルエンサーの間でも、Labubuに関する投稿は徐々に増えてきている。「クセがあるからこそかわいい」「他人と被らないキャラがいい」といった価値観が、少しずつ日本国内にも浸透しつつある。

ただし、現時点における日本国内でのLabubuの認知度はまだ限定的であり、販売チャネルも主に実店舗に限られている。オンライン展開には依然として課題が残っており、今後はオンライン販売の拡充、ブランドとのコラボレーション、ストーリーテリングを通じたIPの深化など、多角的な戦略が求められるだろう。

では、なぜLabubuは中国でここまで人気を博したのか──その背景には、「盲盒 × 感情経済 × セレブ拡散」という3つの要素が挙げられる。

  1. セレブリティによるブランド価値の“格上げ”
    韓国のガールズグループBLACKPINKのメンバー・LISAがLabubuをSNSで紹介したことをきっかけに、リアーナやベッカム、デュア・リパ、ミシェル・ヨーといった著名人が次々に所有を公開した。これによりLabubuは、“センスのあるキャラ”としてのブランド価値を確立し、ファッションアクセサリーとしての側面も強調されるようになった。
  2. 盲盒 × SNSによる体験の共有と拡張
    Labubuの「開封」「収集」「交換」といった一連の体験がSNS上で可視化・共有されることで、ユーザー体験の“拡張”が生まれている。ガチャ的な中毒性と、自然発生的なコミュニティ形成が相まって、Z世代の消費スタイルと非常に親和性が高い点は見逃せない。
  3. 情緒経済と「感情価値」への消費行動
    2024年に発表された《中国情绪经济消费人群洞察报告》によれば、中国のZ世代の40%以上が「感情価値のために商品を購入している」と回答している。Labubuは、外見的な特徴だけでなく、「体験性」「限定性」「価格の上昇期待」などを通じて、高い感情価値を提供している。
出典:MobTech研究院《2024年【情绪经济】消费人群洞察》

さらに、2025年6月に北京で開催されたオークションでは、等身大のLabubuが108万元(約2,200万円)で落札された。これによりLabubuは、「アート玩具」としてのプレミアム価値を獲得し、Pop Martの株価も前年比で10倍以上の高騰を記録した。Labubuはもはや単なるキャラクター商品ではなく、「文化コンテンツIP」として、中国カルチャーの象徴的存在になりつつある。

Labubuから学ぶ、日本IPビジネスの可能性

日本では、「キャラクター=かわいい・安心・癒し」という文脈が根強く、サンリオ、すみっコぐらし、ポケモンのような“万人受け”する存在が主流だ。だが、Labubuはその真逆。尖っていて、クセがある。なのに、なぜか心に刺さる。

この“ズレ”こそ、越境ビジネスにおけるヒントとなる。

感情と結びついた「関係性設計」がカギ

LabubuがZ世代の心をつかんでいる最大の理由は、「感情を投影できる存在」として受け入れられている点にある。完璧でない姿、不機嫌そうな表情、不明瞭な性別や年齢──こうした“あいまいさ”が、ユーザーにとって自分自身を重ねやすい余白になっている。

「かわいいから売れる」「癒されるから好まれる」という従来の図式を超え、キャラクターとユーザーが関係性を築けるような“設計”が施されている。Labubuが“生活に存在する”という感覚は、モノとしてのキャラを超えた新しい価値を生み出している。

世界観の構築には、ストーリーと技術の融合を

Labubuの課題は、ストーリー性や世界観の厚みにまだ発展の余地がある点だ。キャラクターデザインそのものは非常に魅力的だが、それを支える物語や体験空間は限定的であり、長期的なファン形成には不安も残る。

その点、ディズニーやサンリオは、映像作品・テーマパーク・イベントなどを通じて、キャラクターの世界観を立体的に構築してきた。ブランドとしての持続性や、ファンとの深い関係性を築くには、LabubuのようなIPにもこうした多層的展開が求められる。

日本のアニメ・ゲーム企業が持つ高い演出力とストーリーテリング技術との協業は、LabubuのIP深化において重要なカギを握るだろう。

インバウンド戦略への応用可能性

Labubuは、訪日中国人にとって“モノ消費”を超えた「体験のパッケージ」として機能している。Labubuを日本で“見つける・買う・撮る・シェアする”──この一連の流れが、旅の記憶そのものとして成立しているのだ。

こうした行動は、既存のインバウンド戦略との親和性が高い。観光地と連携した限定フィギュアの販売、コラボカフェの展開、フォトスポットの設置など、Labubuを媒介とした共感型コンテンツは、体験消費を重視する外国人観光客の心をつかむポテンシャルを秘めている。

越境時代に必要なのは、“観察する目”

Labubuという存在は、「かわいい=癒し」という固定観念から解き放たれ、不完全さや違和感への共感によって成立する、新しいZ世代的キャラクターだ。

従来、日本のキャラクター文化は「安心」や「癒し」に価値を置いてきた。しかし、これからの時代は「違和感」「共感」「関係性」といった新たな基準によって、IPが再定義されていくだろう。

Labubuは、単なる一過性のブームではない。価値観の転換と、感情消費の未来を象徴する存在である。

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