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中国版Jellycat──中国で「癒し系」ご当地ぬいぐるみが爆発的人気に

Jellycatから広がる「癒し系ぬいぐるみ」現象

近年、中国国内において「癒し系ぬいぐるみ」が若者を中心に爆発的人気を集めている。その火付け役となったのが、英国発のぬいぐるみブランド、Jellycatである。Jellycatは柔らかく抱き心地の良いぬいぐるみを、擬人化キャラクターとしてデザインすることで、単なる子供向け玩具に留まらず、若年層の心を癒す“精神ブロフェン”としての地位を築いた。

Jellycat人気の背景には、「ごっこ遊び式(過家家式)」の体験型販売がある。中国の若者は、単にぬいぐるみを購入するだけではなく、店内でハンバーガーやケーキ型のぬいぐるみを選び、店員がシェフ役となって「調理」するプロセスを楽しむことができる。このような体験は、商品そのものの価値だけではなく、「体験」と「感情的価値」を同時に提供する点に特徴がある。

Jellycatの成功は、情緒経済の文脈で理解できる。若者は、モノを買うよりも心の充足感や癒しを重視する傾向が強まっており、ぬいぐるみはその代表的な媒体となっている。

中国におけるローカルJellycatの台頭

Jellycat人気を契機に、中国各地の文創ブランド(歴史や伝統文化を土台として、現代の創造性や技術と組み合わせることで、新たな価値を持つ芸術、デザイン、文化コンテンツを生み出し、発信する産業)は独自のローカル版ぬいぐるみを次々と生み出している。これらは、地域の食文化や名物をモチーフとした擬人化デザインが特徴である。

西安「绒馍馍」

西安大相文博は、名物料理「肉夾モー」をぬいぐるみに落とし込んだ「绒馍馍」を展開している。単なるぬいぐるみ販売に留まらず、購入者は出来上がりから袋詰めまでの肉夾モー作り体験を追体験できる。このプロセスを通じて、顧客は購入行為そのものに参加感と没入感を得ることができる。

甘粛「麻辣」シリーズ

甘粛博物館が展開する「麻辣燙」ぬいぐるみシリーズは、ブロッコリー、しいたけ、お餅、ベビー白菜、カニかま、団子など6種類の食材キャラクターが存在する。購入者は、具材を選び、辛さを決め、「煮込み」や「袋詰め」のプロセスを楽しむことができる。これにより、消費者は情緒的満足を得るとともに、SNS上で体験を共有することで話題性を拡大している。

その他地域文創の展開

西安・甘粛以外にも、中国各地の文創ブランドは地域名物をモチーフにしたぬいぐるみを次々と発表している。例として、蘇州「大閘蟹」、天津「煎餅果子」、新疆「焼きナン」、福州「仏跳牆」などが挙げられる。いずれも地元文化を反映したデザインと体験型購買プロセスにより、消費者との感情的つながりを強化している。

ご当地ぬいぐるみは、中国の都市や観光地で販売される地域限定商品である。その多くは、地元の特産品や名物料理をユーモラスにデフォルメしたデザインを持ち、単なる「かわいい物」ではなく、「その土地ならではの象徴」を体現している点が特徴である。

従来、中国におけるご当地グッズは「観光のお土産」として位置づけられていた。しかし、今回のぬいぐるみブームはその役割を大きく拡張している。消費者は旅行の記念として購入するだけでなく、日常生活において「癒しアイテム」として身近に置くようになった。SNS上では「旅先で出会ったぬいぐるみを自宅に連れて帰る」ことが一種のトレンドとなり、ハッシュタグ付きの投稿が拡散することで、購買意欲を喚起している。

さらに、ご当地ぬいぐるみはキャラクター性を帯びることで、ファンダム的な広がりを見せている。特定地域やブランドに愛着を持つ若者が、ぬいぐるみを媒介として「ファンコミュニティ」を形成し、情報交換やコレクションの共有を行っている。この点において、ご当地ぬいぐるみは従来の土産品とは一線を画す現象である。

背景にある情緒消費・癒やし経済

こうしたローカルぬいぐるみ人気の背景には、Z世代を中心とする情緒消費の潮流がある。現代中国の若者は都市生活のストレスや社会的孤立にさらされており、単なる物品よりも、心の充足感や癒しを提供する商品に価値を見出している。

デジタル孤独と精神的陪伴

SNSやオンラインゲームの普及により、若者の社交行動はデジタル化が進み、現実世界での高品質な人間関係は希少となっている。このような状況下で、擬人化されたぬいぐるみは個人の感情表現や自己承認を可能にする存在となる。Jellycatや地域版ぬいぐるみは、孤独感の緩和や情緒的安定、精神的癒しといった機能を担う「心の拠り所」としての役割を果たすのである。

儀式感と擬人化の効果

ローカルぬいぐるみは単なる物理的存在ではなく、各キャラクターに特定の「キャラクター設定」を与え、購入や体験プロセスを通じた「ごっこ遊び式」儀式感を提供する。これにより、消費者は商品との間に感情的な結びつきを形成し、ブランドに対する愛着や帰属意識を強化する。SNSでの共有やコミュニティ形成も加わり、情緒消費の連鎖が加速している。

日本企業・自営業者への示唆

この中国の事例は、日本企業や自営業者にとっても示唆に富む。特に、地方文化や名物を活用したローカル文化創意×キャラクター化は、新たな商品開発や観光・EC事業への応用が可能である。

  1. 地域資源のキャラクター化
    地元の食文化や名物、伝統工芸を擬人化ぬいぐるみとして商品化することで、感情価値を付与できる。
  2. 情緒価値の付与
    消費者は物理的商品だけでなく、体験・癒し・コミュニティ参加を求める。販売過程に「儀式感」や「体験型インタラクション」を取り入れることで、購入体験そのものが価値となる。
  3. 越境EC・海外展開
    中国の若者は地域文化と結びついたキャラクター商品に高い関心を示す。日本の地域資源を活かした文創商品は、越境ECやアジア市場での差別化戦略となり得る。
  4. 観光連動型施策
    ご当地キャラクターぬいぐるみは観光土産や地域体験の一環としても活用可能である。体験・購買・SNSシェアを組み合わせることで、地域ブランドの認知拡大や集客効果を期待できる。

まとめ:癒し系ご当地ぬいぐるみが示す新しい消費パラダイム

中国における癒し系ぬいぐるみ人気の本質は、単なる玩具ブームではなく、「物」ではなく「体験」と「情緒」を売る新しい消費パラダイムにある。若者はぬいぐるみを通じて、心の安らぎ、自己表現、コミュニティ参加という多層的な価値を得るのである。

日本企業や自営業者にとっても、地域資源の活用やキャラクター化、体験型販売の導入は、商品差別化やブランド強化の有力な手段となる。特に越境ECや観光分野では、情緒価値を伴う商品は、消費者の心に深く刺さる可能性を秘めている。

Jellycatと中国ローカル文創ぬいぐるみが示したように、「物」以上の価値を設計し、情緒経済と体験を融合させることが、今後の文創商品戦略の鍵である。地方文化や地域資源をいかに魅力的に商品化し、消費者の感情に寄り添えるかが、次世代のマーケティング戦略における最大のテーマである。

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